ヤマカワラボラトリ

ことばとおんがくがすきなめんへらさん、ヤマカワの研究所。

00202_第七話『山川町のひとたち』

筆者が墓参りに行こうと思い立ち、墓地の前まで来ると、喪服を着た人たちと鉢合わせた。

 

このお寺の檀家さんで法事でもあったのだろう。
お年寄りから小さな子供までが、墓地から出て来ていた。

 

少し時間を開けてからまた来よう、と筆者が足を止めると同時に、声をかけられた。

「あれ? ヤマカワじゃん?」

 

声の主は若い男性だった。背が伸びていて一瞬誰だか分からなかったけど、小学校の頃の同級生だと気づいた。

 

「おぉ、久しぶり。元気してた?」
筆者が聞くと、彼は子供っぽい笑顔を浮かべて
「まぁ元気にやってるよ。お前はどうなんだ?」
と問うて来た。
「こっちもまぁそこそこ。懐かしいなぁ、会うの卒業以来じゃね?」
話し始めた筆者たちの間に、幼い女の子が駆けてきた。

 

そうか、と筆者は納得した。少しだけ、心が縮む。
「お、娘さん?」
筆者が聞くと、彼は
「いやいや、姪っ子だよ。兄貴の娘さ」
と笑った。そうなのか、と安心した。

 

なんで「安心」なんてするんだろう、と一瞬思った後で、
「まぁオレも来月にはパパになるんだけどな」
と彼の言葉が続いた。

 

筆者の表情は変わらない。大丈夫、笑顔が保たれてる。
自然に心から言える。
「お、マジか! おめでと!!」

 

「ヤマカワはどうなん?最近どうしてんの?」
「俺? 俺は特になにもないよ。まぁそれなりにやってってるよ」
「おーそっか、またみんなに声かけて飲みとか行こうぜ」
「そうだな。また行こー」
「んじゃな」
「おう」

 

 

そんな風に簡単なやり取りをして、彼とその親族たちは去っていった。
ふぅ、と一息ついて、筆者は自分の家の墓に向かう。
「なんだか、みんな進んでくんだな……」
そんな独り言が、ご先祖様に聞かれていたかもしれない。
線香を上げて、手を合わせて、筆者はその場を後にした。