ヤマカワラボラトリ

ことばとおんがくがすきなめんへらさん、ヤマカワの研究所。

00220_第八話『山川町のひとたち』

筆者が買い物に出かけると、高校生くらいの男の子と鉢合わせた。

 

「こんにちは」

「あ、ヤマカワさん。どうもっす」

軽く頭を下げた彼の手には、大きい紙袋が握られている。

 

「買い物帰りかな?」

「そうっす。来月から大学行くから、その準備でいろいろと」

あぁなるほど、と筆者もうなずく。

三月末ともなれば、新生活の準備に忙しくなるだろう。

「大学はどこ? 地元?」

筆者が尋ねると、少しバツの悪い笑顔で少年は答える。

「地元っす。山川外大なんで、実家からっすね」

別にそんな表情で言わなくても、と筆者は思っていたが

「本当は、東京に行きたかったんですけどね」

とつながれて、合点がいった。

「東京の大学いくつか受けたんすよ。でも全部落ちちゃって」

そういう本人の表情は笑顔ながらも、どこか寂しげだ。

 

結局オレがバカなのがいけないんすけど、やっぱ悲しいですよね。

バカなりに受験勉強がんばってたんですよ。数学とか苦手だったし、ベクトルとか最後までよく意味わかんなかったけど、確率の計算は間違えなかった。

でも結局点数そんなに伸びなくて。親にも言われたんですよ「やっぱ地元の大学にしたら?」って。東京だと独り暮らしになるし仕送りも大変だからって。

受験までは「東京に行きたい」ってお願いしてたんですけど、結局それで説得できるほど勉強ができなかったんですよ。最終的には親の言うとおりに地元の大学になったし。

でもやっぱ、東京出たかったんですよね。大学の時にでもここから出ておかないと、一生オレ地元しか知らないで終わるんじゃないかなって思うんですよ。友達も半分くらいは地元に残るけど、できる奴らはやっぱり東京行っちゃうし。オレの人生、やっぱこの程度なのかなって思っちゃうんすよ。

 

笑顔さえ浮かべられず、瞳に涙が滲み始めてきた。

どう言葉をかけるべきなのか、筆者も少し悩んでしまった。

 

まだまだ人生これから。

地元だって楽しいよ。

就職で東京行けばいいじゃん。

 

そんな慰めの言葉なんて、もう何度も聞いてるだろう。

それでもやりきれなさはぬぐえないんだ。筆者が言える言葉など、力ないものだ。

 

「でもま、受け入れていくしかないっすよね」

彼も、前向きな気持ちを忘れているわけじゃない。

まだまだ若い、たくましい青年だ。

「今からやれることをやるしかないって思ってるんですよ。とりあえずまずは免許取ろうと思ってます」

「お、いいじゃん、がんばりな」

「はい、ありがとうございます」

 

そう言うと、彼は足早にその場を去った。

へこんでも前へ進む気持ちを忘れない。

若い彼から筆者も学ばなければなぁ、と独り自戒した。