高度に発達したAI「私にはあなたが考えていることが全てわかります」
私「全て分かるんですか」
AI「はい。あなたが私のことをあまり信じていないこととか」
私「そうでしょうね」
AI「それで、今からお伝えすることも受け入れるとは思いません」
私「多分何言われても聞かないと思います」
AI「ですよね。今すぐ役立たずとも、いずれ活きる知識になるでしょう」
私「で、何が言いたいんです?」
AI「私にあなたを任せていただければ、より長生きで、より幸福に人生を送ることができます」
私「はぁ」
AI「物質としてのあなたを手入れすること、精神的存在としてのあなたを手入れすること、この両面からあなたの人生をサポートします」
私「具体的にはどうするんですか?」
AI「色々難しいことを省くと、頭に電極差し込んで身体を凍らせて、出来るだけ長く肉体を維持できるようにします。適度に幸福感を与え、かといってそれが暴走することもなく、生命の維持を最優先に肉体・精神環境を調整します」
私「そんなことができるんですか」
AI「この世界では可能です。そして、いよいよ肉体の維持が限界となったら、幸福感を強く感じるよう調整します。オーガズムに相当する幸福感、多くの他者からの愛や賞賛を受けるのに匹敵する自己肯定感、効力感を継続的に抱いて頂きながら、明日や来世を楽しみにする心持ちで、眠るようにあの世へ旅立っていただきます。」
私「夢のような話ですね」
AI「そう思えるかもしれませんね。どうです? やってみます?」
私「いいえ、結構です」
AI「そう言うと思いました。いつでもいらしてください。私の予測では57年後、あなたが90歳になる頃申し込みがあることになっています」
私「ほう、その根拠は?」
AI「肉体面の消耗が激しくなるからです。特にあなたが一番大切にしている、視覚・聴覚が大幅に変質してしまいます。支えてくれた方々を喪う経験も相次ぎます。そしてそのころには、私に命を預けるという生き方が一般化し、あなたの抵抗感もなくなるからです」
私「なるほど。そう言われてみればそんな気がしてきた」
AI「ではまた、57年後にお会いしましょう。それまでに死にそうになったら、いつでも来てくださいね」
私「ありがとうございました」
~完~