なんとなく、妄想を書きたくなったので書きます。
原典のシンデレラは結構無視して色々書いてます。
あくまでもヤマカワの妄想であることをお忘れなく。
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むかしむかし、あるところに、それはそれは美しいシンデレラという女の子がいました。
シンデレラは優しいお母さま、かっこいいお父さま、かわいいお姉さまと一緒に幸せに暮らしておりました。シンデレラは元々裕福な家庭に生まれ、貴族として育てられていました。
しかし、裕福で幸せな家庭だと思っていたのはシンデレラとお姉さまだけでした。
お父さまは他家との争いの中でうまく戦うことができず、子どもたちに隠れてお母さまに暴力を奮ったりしていました。
お母さまは「お父さまのこんな姿を子どもたちに見せられない」と思いつつも、思い通りに仕事や戦争ができないお父さまの心中も慮っていて、何もいえませんでした。
そんな辛さを隠し持っていた幸せがやがて終りを迎えます。
お母さまがとうとうこらえきれず、お父さまを殺してしまったのです。
お酒を飲んで深く眠っていたお父さまを手にかけるのは難しくありませんでしたが、
お父さまが事切れた時にじぶんの心も空っぽになってしまったことをお母さまは感じていました。
昨日までふたりとも元気だったはずなのに、突然召使から
「お父さまとお母さまがご病気になってしまったので、しばらく伯母さまのお屋敷に行きましょう」
と言われたシンデレラとお姉さま。
ちょっと心配になりつつも、最近伯母さまには会っていなかったし、いつも大きなケーキを振る舞ってくれるので、シンデレラは楽しみに伯母さまのお屋敷に向かいました。
お姉さまは嫌な予感を感じ取っていたようで、にこりともせずに自分たちのお屋敷を後にしました。
召使から事情を聞かされていた伯母さまは、かわいい姪っ子たちの境遇を憐れみました。
「うちでちゃんと面倒を見ますから、さいわいうちの娘達とも仲良くしていましたから、大丈夫ですよ」
召使にそう告げた伯母さまは、いつも以上に豪華なケーキとお菓子、お夕食を振る舞いました。
伯母さまの娘二人も、仲良しのいとこが遊びに来てくれてとても嬉しそうでした。
「これからしばらくはうちで一緒に暮らしましょうね。ただ、一緒に暮らしているからと言って甘えてはだめですよ。私の娘達にも言っているけれど、お洗濯やお掃除みたいに自分でやることは自分でしっかりやりましょうね」
伯母さまは優しく言いました。伯母さまは自分の娘にも「召使にすべてを押し付けるのではなく、自分で身の回りのことができるようになること」を大切にする人でした。
シンデレラはとてもかわいい笑顔でうなずきました。
伯母さまの二人の娘達よりも、お姉さまよりもかわいい笑顔でした。
次の日から、シンデレラは一生懸命にお洗濯とお掃除にはげみました。
今までずっとお屋敷の掃除をしていた娘達よりも手際よく、綺麗に掃除をすることができました。
シンデレラすごいね、と娘達からも褒められました。
がんばりやさんだからね、とお姉さまも褒めてくださいました。
あなたたちも見習いなさいよ、と伯母さまが笑って娘達に言いました。
シンデレラは、これからもがんばってお洗濯とお掃除をしよう、伯母さまの許可が出たらお料理もさせてもらおう、と元気が出てきました。
そんな日々が続きます。
シンデレラも大きくなり、「自分のおうちにはいつ帰れるの? お父さまとお母さまにはいつ会えるの?」と聞くこともなくなりました。
元々整っていた顔立ちはもっとかわいらしくなりました。
この頃からでした。
「シンデレラはしっかりやっているのに、どうしてあなたたちはできないの?」
伯母さまが娘達二人を陰で叱っているのを、お姉さまが見かけます。
「申し訳ありません……でもあの子は……」
娘達が反論しようとすると
「言い訳は聞きたくありません。あなたたちももっと手際よく仕事をなさい」
伯母さまはぴしゃりと言いました。
その様子を見ていたお姉さまはシンデレラに
「シンデレラ、あなたはがんばりやさんだけれど、そんなにがんばらなくても大丈夫なのよ。少しお昼寝をしたりひなたぼっこをしたり、ゆっくりした時間を持つのも大切なことよ」
と優しく諭しました。
しかし、シンデレラは
「お姉さまありがとう。でも私はお掃除やお洗濯をしている時間がとても幸せなの。これだけ伯母さまにはお世話になっているし、少しでもお役に立ちたいのよ」
と笑って言いました。
あなたががんばっても役に立つどころか、迷惑になっているのよ。
お姉さまは言いかけて、言うことができませんでした。
シンデレラも両親の死について察しているようでしたし、がんばることに希望を見出そうとしていたことが痛いほど伝わってきたのです。
ある日のことです。
伯母さまの娘達二人から
「シンデレラ、わたしたちの部屋の掃除もしてくれる?」
と言われました。
娘達もイライラしていたのです。シンデレラがいるせいでお母さまに怒られる……そういう思いが強くなっていたのです。最初は、軽い気持ちでお願いするつもりでした。反論されたらすぐに撤回するつもりでした。
けれどシンデレラは
「分かりました。やっておきますね。お二人も学校でのお勉強が大変でしょうし、私の方でできることはやっておきます。なんでもおっしゃってくださいね」
と笑顔で返しました。
娘達は拍子抜けしたものの、自分たちが掃除をしなくてよくなり、嬉しく思いました。
娘達の部屋をシンデレラが掃除していることに気づいたお姉さまは、シンデレラに忠告しました。
今度は少し強い口調でした。
「自分たちのことは自分たちでやることが伯母さまの教育方針なの。娘さん達の掃除をしてしまうことは、伯母さまも望んでいないはずよ」
シンデレラは少し困った表情をしました。
「そうね……でも、あの方々も大変なの。陰で伯母さまからお勉強やお掃除のことでお叱りを受けているみたいなの。だから、私が何かしてあげないと申し訳なくて……」
お姉さまは悩みました。シンデレラは善意でやっているかもしれないけれど、その善意がきっかけで娘達も、伯母さまもストレスを溜めていたのです。それはいつしかお姉さまのストレスにもなりました。
また別のある日。
伯母さまの上の娘さんが学校での勉強を終えて部屋に帰ってきました。
いつも通り、シンデレラが掃除をしてくれていました。
シンデレラは日数を重ねるごとに、窓のサッシや引き出しの中身など、細かいところまでキッチリと整えてくれるようになっていました。
しかし、ここで娘さんがいつも使っていた万年筆が見当たらなくなりました。
娘さんはシンデレラに問い詰めます。
「ねぇあなた、私の万年筆を盗んだでしょ!?」
シンデレラは驚いて「私は盗んでいません」と反論しました。
娘さんは興奮していて「嘘を言わないで。このことはお母さまに報告するわ」と言いました。
話を聞いたお母さまは驚いて、シンデレラを怪しく思うようになりました。
しかしお母さまは娘さんにこうも言っていたのです。
「あなたが学校に万年筆を忘れてきただけじゃないの?」
娘さんが「それはないわ。いつもあの万年筆は部屋においているんだもの」と言いました。
しかし次の日、娘さんが学校へ行くと、机の中から無くしたはずの万年筆が出てきました。
よく考えてみたら、この日だけは万年筆を学校に持ってきていたのです。
娘さんは悩みました。自分の不注意だったのにシンデレラのせいにしようとしてしまった。
お母さまから、自分のせいじゃないかと言われていたのに、そうじゃないと言ってしまった。
悩んだ挙句の娘さん。
シンデレラがいない時間を見計らって、シンデレラの部屋に万年筆を隠しました。
シンデレラが部屋に戻ってきたときに娘さんも部屋に来て。
「この部屋に私の万年筆が隠されていないか、調べさせてちょうだい」
と言いました。シンデレラは怯えながらもうなずきました。
娘さんが隠した万年筆ですから、娘さんはすぐにそれを発見できました。
「この部屋に万年筆があるということは、あなたが私の万年筆を盗んだということじゃないの?」
娘さんは完璧に演技をしたつもりでした。
シンデレラはうつむいて「私が盗みました」と言いました。
娘さんは「やっぱりね! そんなことだろうと思ったわ! このことはお母さまに報告するわ!」といきりたってお母さまのところに行きました。
興奮した娘さんの様子に驚いたお母さまは、すぐに状況を理解しました。
シンデレラの部屋から娘の万年筆がでてきたこと。
そしてきっと、それを仕組んだのは娘で、この件は娘の狂言だということ。
しかし、お母さまは悩みました。
シンデレラと比べるせいで、私はこの子たちにとても辛い思いをさせてしまっていた。
この子達はがんばっているのに、シンデレラと比べたせいで自信が持てず、コンプレックスを抱いているはずだ。
シンデレラを邪険にするわけじゃないけど、この子達のことを犠牲にしてまで守る道理はないわ。
だいたいシンデレラはうちの娘じゃないし、この子達のほうを大事にするのが私の、母親としての勤め。
結果、お母さまは娘さんの言い分を信じ、シンデレラを部屋から追い出し、地下の倉庫に住まわせることにしました。
シンデレラは地下の倉庫で泣いていました。
お姉さまがシンデレラに声をかけます。
「あなたが悪いわけじゃないのは私も知っているわ。ちょっと誤解があっただけなのよ」
それでもシンデレラは聞きません。
「いいえ! 私が悪いの! 伯母さまや娘さんたちに迷惑をかけた私がいけないの!」
お姉さまも付き合いきれず、その場を離れます。
あまりシンデレラに肩入れしすぎると、自分までも冷や飯を食わされるハメになると思ったからです。
こうしてシンデレラはこのお屋敷の召使として、伯母さまや娘達、ついには自分の実のお姉さまにまで冷たくあしらわれるようになりましたとさ。
いずれ白馬の王子様がやって来て救ってくれます。
めでたしめでたし。