向こうから髪の長い女の人が歩いてきて、ちょっと気まずくなってしまった。
向こうも筆者に気づいて、ちょっとバツの悪そうな顔をした。
「ごぶさたですね」
話しかけてみた。話したくないと思っていたり、それでも話したいと思っていたり、そのくらい頭の中にいる時間の長い人だった。
「ヤマカワさん、ごぶさたですね」
思っていたより、普通の返事だ。あんまり表情は良くないけれど。
「……なんか、ごめんね」
筆者が謝る。唐突だと、自分でも思う。それでも、他に言葉も出てこないし、伝えたいことなんてそんな形でしか口にできない。
「どうしたの? 何か謝られるようなことしたっけ?」
自然なように彼女は答える。あまりにも自然に少し表情を崩した彼女の返答が、筆者には白々しいようにも思えた。
「あのときの、あれ。ごめん」
「どれのことか、わからないよ」
「何っていうか、あなたの気持ち考えないで色々わがまましてて」
「いきなりワケの分からない謝罪始めてる今も、全く私の気持ち考えてないでしょ?」
彼女に言われてはっとした。あきれた、という表情で彼女は筆者を見た。
「そうだね、ごめんよ」
「だから、何についての『ごめん』なの?」
「あなたの気持ちを考えずに勝手に謝罪とかして、ごめん」
「はいはい。分かったわ」
「許してくれる?」
「許してるよ。でも、『許したよ』って言ったって、どうせ許したと思ってくれないでしょう?」
昔と変わらず、彼女は核心を突いて筆者の言葉を止まらせる。
昔からそうね。あなたは私のことを信じてくれなかった。私というより、他人一般を信じてはいないと思った。家族だったり、友達だったり。どこかで他人を過剰に持ち上げたり、過剰に見下したりしていた。それは今も変わってないようね。私にはあなたの過剰な感じが苦手なの。そんなに謝るなんて、謝られても許さないなんて、私をどんな悪人だと思ってるの? あなた自分がそんなに謝られて他人を許さないの? 私もあなたと同じ人間なの。そこのところ分かってよ。どうせまた「あぁ、また怒らせちゃった」とか思ってるんでしょ? そのくらい耐えられるようになってよ、男でしょ。
ひとしきり言われた後で、彼女から「ごめん」と言われた。
自分でも悲惨な表情をしているなと分かる。
「こっちこそ、ごめん。ありがとね」
筆者は笑う。そんな形でしか、しっかり叱ってくれる彼女に誠意を返せない。
「嫌なことは早く忘れて、ゆっくりしなよ」
「ありがと」
「強くなりな」
「うん」
「それじゃ、ね」
「うん、またね」
「もう会わないほうが良いと思うけど」
「……そっか。そうかもね」
「あんたが会いたいなら、会ってやらないこともないよ」
「ありがとう。それじゃ、またね」
「はいはい、またね」
~完~